
障害者総合支援法とは?

障害者総合支援法(障害者の日常生活、及び社会生活を総合的に支援するための法律)は、障害者および障害児が基本的人権を享有する個人としての尊厳にふさわしい日常生活・社会生活を営むことを目的に、障害の有無にかかわらず相互に人格と個性を尊重し、安心して暮らすことのできる地域社会の実現を目指して制定された法律です。
障害者への福祉サービスの基本的な部分はこの「障害者総合支援法」に規定されており、この法律に基づいて障害者の日常生活・社会生活の支援が図られています。
ノーマライゼーションの理念に基づいて2003年に支援費制度が導入されて以来、自らが望む地域生活を実現させるための生活・就労に対する支援の拡充や、高齢障害者による介護保険サービスの円滑な利用を促進するための見直し、障害児支援のニーズの多様化にきめ細かく対応するための支援拡充など、改正が重ねられてきました。
本記事ではそんな「障害者総合支援法」についての現状をまとめてお伝えしたいと思います。
障害者総合支援法の基本理念と目的
まず基本理念として、条文には以下のような内容が示されています。
- 障害の有無にかかわらず、全ての人が等しく基本的人権を享有する かけがえのない個人として尊重されること
- 障害のあるなしに関わらず、共生する社会を実現すること
- 全ての障害者及び障害児が、可能な限り身近な場所で必要な支援を受けられること
- 社会参加の機会・選択の機会が確保されること
- そのために社会における障壁を解消していくこと
障害者・障害児が他国民と同じように自立した社会生活を送れるよう、様々な支援をおこなうことを目的としています。
障害者総合支援法の対象者
障害者総合支援法における支援の対象者は、以下のとおりです。
①18歳以上で以下の条件に該当する方(成人)
・身体障害者
・知的障害者
・精神障害者(発達障害者を含む)
②18歳未満で以下の条件に該当する方(障害児)
・身体障害者
・知的障害者
・精神障害者(発達障害者を含む)
③難病患者
適宜対象となる難病が見直し・拡大され、令和3年度より366の難病が障害者総合支援法の対象として指定されています。
(参考:厚生労働省「障害者総合支援法の対象疾病(難病等)」)
障害者総合支援法2022年改正のポイント
社会情勢の目まぐるしい変化に伴い、障害者や障害児、支援者のニーズ・要望も変化しています。より実態に即した制度となるよう2022年12月に障害者総合支援法は改正され、一部を除き2024年4月より施行されます。ここでは、2024年4月に施行される6つの改正ポイントを紹介していきます。
◆障害者等の地域生活の支援体制の充実
共同生活援助(障害者グループホーム)の支援内容について地域での一人暮らし等を希望する方に対する支援や、退居後の相談が含まれることを法律上明確化することや、精神保健に関する相談支援の対象を広げ、精神障害者だけでなく精神保健に課題を抱える方にも適切な支援が包括的に実施できるよう、地域生活支援拠点の整備を市町村の努力義務とするよう定められました。
◆障害者の多様な就労ニーズに対する支援及び障害者雇用の質の向上の推進
就労に意欲がある方への雇用支援策として、就労アセスメントを活用した「就労選択支援」を創設することや、就労機会を拡大を目的として、これまで企業の雇用義務の対象外だった方(週所定労働時間10時間以上20時間未満の重度身体障害者、重度知的障害者及び精神障害者)も実雇用率の計算に加えられるよう改正されました。
また、障害者の「雇用者数」で評価する障害者雇用調整金等における支給方法を見直し、企業が実施する「職場定着等の取組」に対する助成措置が強化されます。
◆精神障害者の希望やニーズに応じた支援体制の整備
医療保護入院の要件見直しや、入院者の体験や気持ちを丁寧に聴くとともに必要な情報提供を行う「入院者訪問支援事業」の創設が定められました。
また、虐待防止に向けた取組推進のため、精神科病院においての従事者等への研修、普及啓発や、虐待発見時に都道府県等へ通報する仕組みの整備が定められました。
◆難病患者及び小児慢性特定疾病児童等に対する適切な医療の充実及び療養生活支援の強化
難病患者及び小児慢性特定疾病児童等に対する医療費助成について、助成開始の時期を、これまで「申請日」を基準としていたところから「重症化したと診断された日」へと前倒しして受給できるようになります。
また福祉サービスの円滑な利用ができるよう「登録者証」の発行を行うほか、地域連携を推進し、難病患者の療養生活支援や、小児慢性特定疾病児童等自立支援事業を強化することが定められました。
◆障害福祉サービス等、指定難病及び小児慢性特定疾病についてのデータベース(DB)に関する規定の整備
障害福祉サービス等や難病患者等の療養生活の質の向上に資するため、上記のデータについて、第三者提供の仕組み等の規定が定められました。
地域のニーズを汲んだ障害福祉サービスを提供するため、都道府県知事が行う事業者指定の際に市町村長が意見を申し出る仕組みを創設し、また居住地特例の対象に介護保険施設等を追加することが定められました。
※居住地特例:障害者支援施設等に入所する障害者は、施設所在市町村の財政負担を軽減する観点から、施設入所前の居住地の市町村が支給決定を行うこと。
改正の背景:介護保険施設等の入所者が障害福祉サービスを利用する場合、施設所在市町村に財政的負担が集中するとの指摘があった。
障害者総合支援法下の障害福祉サービス
障害者総合支援法ではどのようなサービスが受けられるのでしょうか?
サービスは大きく分けて次の5つの種類に分類されます。
①介護給付サービス
②訓練等給付サービス
③相談支援サービス
④自立支援医療
⑤地域生活支援サービス
順に解説していきます。
介護給付サービス
介護給付サービスとは、障害を持っている方が介護の支援を受ける場合に利用できるサービスです。自宅での介護や、行動の援助などのサービスの総称となります。
サービスの内容や対象者によって「訪問」「日中活動」「施設」と種類が分かれています。
「訪問」
サービス | 内容 |
居宅介護 (ホームヘルプサービス) | 日常生活で困難なことに対しての援助を行う。 (例)掃除、洗濯、入浴・着脱などの介護、通院の付き添い |
重度訪問介護 | 重度の障害がある方に自宅へ出向いて支援を行う。 居宅介護と違い、入院時の支援も含まれる。 |
同行援護 | 視覚障害のある方に、外出の移動時に必要な情報提供や同行を行う。 |
行動援護 | 知的障害や精神障害があり行動時の介護を要する方に、危険回避のための援護を行う。 |
重度障害者等包括支援 | 最重度の障害があり様々な支援が必要な方に対して包括的なサービスを提供する。 |
【日中活動】
サービス | 内容 |
短期入所 (ショートステイ) | 自宅で介護する人が不在の場合などに、一時的に夜間も含め、 入浴、排せつ、食事などの介護を行う事業所 |
療養介護 | 長期の入院や常時の介護が必要な方に、食事や排せつの介助と合わせて医療行為も提供するサービス。 |
生活介護 | 常に介護を必要とする人に、昼間、入浴、排せつ、食事の介護を行うとともに、創作的活動または生産活動の機会を提供する事業所 |
【施設】
サービス | 内容 |
施設入所支援 | 施設に入所する人に、夜間や休日、入浴、排せつ、食事などの介護を提供するサービス。日中は自立訓練や就労移行支援を利用し、夜間は施設に入居して、主に入浴や排せつ、食事などの介助などのサービスを受ける。 |
訓練等給付サービス
訓練等給付サービスとは、障害のある方に対して就労に向けた訓練や支援を提供するサービスです。「自立訓練」「就労支援」「居住支援」の大きく3つに分類されます
「自立訓練」
サービス | 内容 |
機能訓練 | 身体障害者に対して身体機能の維持や回復のため、理学療法士や作業療法士によるリハビリテーション等を提供する。 |
生活訓練 | 地域生活を営む上で、生活能力の維持・向上等のため、一定期間の訓練が必要な障害を対象に、入浴、排せつ及び食事等に関する自立した日常生活を営むために必要な訓練や、生活等に関する相談及び助言などを実施する |
「就労支援」
サービス | 内容 |
就労移行支援 | 一般企業への就職を希望する障害者の方へ、就労に必要な知識や能力向上の訓練、求職活動の支援を行う。 |
就労定着支援 | 一般企業などに就職した方へ向けて、継続して働き続けるための相談を受けたり、アドバイスを行う。 |
就労継続支援A型 | すぐに一般企業に就労するのが困難な状況の方に対して、働く機会の提供や一般企業への就職へ向けた支援を行う。原則として、利用者は事業所と雇用契約を結ぶ。 |
就労継続支援B型 | 利用者は事業所と雇用契約は結ばず、作業に応じて「工賃」が支払われる。A型への移行や一般企業への就労に向けた訓練を行う。 |
「居住支援」
サービス | 内容 |
自立生活援助 | 障害者支援施設などを利用後、一人暮らしを希望している方に向けて支援を行う。居宅訪問による相談など。 |
共同生活援助 (グループホーム) | 共同生活を行う住居で、日常生活上の援助が受けられるサービス |
相談支援サービス
障害がある方の地域での生活・福祉に関する相談ができる機関で、多岐にわたる様々な生活上の悩みについて相談でき、障害福祉サービスの利用のための情報提供や支援を受けられます。
利用計画書の作成などを行う「計画相談」と、地域での生活のサポートをする「地域相談」に分けられます。
【計画相談】
・サービス利用支援
障害福祉サービス等の申請に係る利用計画案を作成し、利用後にサービス事業者等と一緒にサービス等利用計画の作成を行う。
・継続サービス利用支援
サービス支給決定後の利用状況の検証や、事業者との連絡調整を行う。
【地域相談】
・地域移行支援
地域移行支援計画の作成や相談による不安解消、外出への同行支援、関係機関との調整等を行う。
・地域定着支援
居宅・単身で生活している障害者に向けて、連絡体制の確保や緊急時の支援を行う。
自立支援医療
自立支援医療とは、障害の治療にかかる医療費の自己負担額を軽減する制度です。
この制度を利用すると、自己負担額が原則3割負担から原則1割負担へと軽減されます。
自立支援医療は、対象者によって以下の3つに分けられます。
①精神通院医療(精神疾患のある方が対象)
②更生医療(身体障害のある方が対象)
③育成医療(身体障害のある子どもが対象)
地域生活支援サービス
市区町村や都道府県が主体となり、地域の特性や利用者の状況に応じて柔軟な形態により実施する事業のことで、障害のある方が能力や適性に応じて自立した日常生活又は社会生活を営むことができるよう支援を実施します。
なお、対象者、利用料など事業内容の詳細については、地域によって内容に違いがありますので、最寄りの市町村又は都道府県窓口に確認するようにしましょう。
【市町村事業】
・相談支援事業
障害のある人やその保護者、介護者などからの相談に応じながら、必要な情報提供等や権利擁護のために必要な援助を行う。 また、自立支援協議会を設置し、地域の相談支援体制やネットワークの構築を行う。
・コミュニケーション支援事業
聴覚、言語機能、音声機能、視覚等の障害者の方へ、手話通訳や要約筆記、点訳等を行う者の派遣などを行う。
・日常生活用具給付等事業
重度障害のある人等に対し、自立生活支援用具等日常生活用具の給付又は貸与を行う。
・移動支援事業
屋外での移動が困難な障害のある人について、外出のための支援を行う。
・地域活動支援センター
障害のある人が通い、創作的活動又は生産活動の提供、社会との交流の促進等の便宜を図る。
・その他の事業
市町村の判断により、自立した日常生活又は社会生活を営むために必要な事業を行う。
(例:福祉ホーム事業、訪問入浴サービス事業、日中一時支援事業、社会参加促進事業 等)
【都道府県事業】
・専門性の高い相談支援事業
発達障害、高次脳機能障害など専門性の高い障害について、相談に応じ、必要な情報提供等を行います。
・広域的な支援事業
都道府県相談支援体制整備事業など、市町村域を超えて広域的な支援が必要な事業を行う。
・その他の事業(研修事業を含む)
都道府県の判断により、自立した日常生活又は社会生活を営むために必要な事業を行う。
(例:福祉ホーム事業、情報支援等事業、障害者IT総合推進事業、社会参加促進事業 等)
また、サービス提供者、指導者などへの研修事業等を行う。
まとめ
今回は「障害者総合支援法」について紹介しました。
障害者総合支援法は、障害のある方への日常生活や社会生活への様々な支援が定められた法律です。適宜改正がありますので、現在の内容が変更されることもあります。
詳細を知りたい際は、厚生労働省のホームページなどを確認していただくと良いでしょう。
障害者総合支援法の中の障害福祉サービスでは、自立支援給付として介護に関する「介護給付」や、日常生活の支援・就職支援である「訓練等給付」があり、障害の程度やお困りごとに合わせたサービスの提供を行っています。
多くのサービスがありますので、自分がどのサービスを利用すべきか、受けられるサービスについて迷った時は、お住いの自治体の障害福祉窓口や相談支援事業所へ相談してみてください。
